大判例

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東京地方裁判所 昭和43年(ワ)15138号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕被告芦沢が昭和四三年九月一九日原告に対し、金三〇〇、〇〇〇円を支払つたことは、当事者間に争いがない。

……によると、被告芦沢の親権者芦沢延治、同芦沢八千代の両名は、昭和四三年九月一九日、原告の権限ある代理人楠瀬正淳との間で、本件事故に関し、被告芦沢が原告に対し、休業補償および慰藉料として右の金三〇〇、〇〇〇円を支払い、原告は後遺障害に基づく慰藉料および逸失利益を除くその余の損害賠償請求権を放棄することを約して示該したことが認められる。

ところで、慰藉料によつて賠償されるべき精神的損害は、元来無形のもので、かつ、加害の動機、態様、被害の程度、全治の可否、後遺症の有無など諸般の事情のかね合いにおいて認められるものであり、しかもその精神的苦痛とは現在の精神的苦痛に外ならず、過去の精神的苦痛は損害填補の対象にならないし、また将来の精神的苦痛というものは現存しない。これによつて見れば、後遺症に対する慰藉料とそれ以外の慰藉料というように一個の精神的苦痛を時間的に発展する傷害の程度に応じて截然と分けることは論理的に不可能である。したがつて、右示談契約中の慰藉料に関する部分を示談により紛争解決を図ろうとした契約の趣旨から合理的に解するならば、その契約時までに発生し、また契約時において予見し得る一切の事情を算定の基礎として、同日現在の慰藉料としては、原告は被告芦沢に対し金三〇〇、〇〇〇円の慰藉料請求権以外の分は放棄したものと解すべきである。そして、原告は示談契約当時、既に脾臓摘出手術も終り、事故前の勤務に復帰していたもので、示談後に新たに後遺症が発生したことを認める証拠はないから、原告と被告芦沢との間においては、前認定の慰藉料請求権金三〇〇、〇〇〇円は前記弁済により消滅したことになる。しかしながら、原告が後遺症に基づく逸失利益の損害賠償請求権まで放棄したことを認める証拠はない。(岩村弘雄 堀口武彦 小林亘)

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